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福岡高等裁判所 平成11年(ネ)1028号・平12年(ネ)35号 判決

控訴人(附帯被控訴人。以下、「控訴人」という。)

後藤誠一郎

右訴訟代理人弁護士 木上勝征

同 増永弘

同 松井仁

同 徳永隆志

被控訴人(附帯控訴人。以下、「被控訴人信用金庫」という。) 新北九州信用金庫

右代表者代表理事 天野幸康

右訴訟代理人弁護士 内川昭司

被控訴人 山本八惠

被控訴人 岡崎和惠

右両名訴訟代理人弁護士 三浦久

主文

一  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人らの控訴人に対する請求をいずれも棄却する。

三  被控訴人信用金庫の本件附帯控訴(当審で拡張した請求を含む。)を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨(控訴人)

1  主文第一、二項と同旨

二  控訴の趣旨に対する答弁(被控訴人ら)

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

三  附帯控訴の趣旨(被控訴人信用金庫)

1  原判決主文一項を次のとおり変更する。

控訴人は、被控訴人信用金庫に対し、金三九三万六〇〇〇円及び内金四五万円に対する平成八年二月一日から、内金四五万円に対する平成一〇年二月一九日から、内金六〇万円に対する同年一二月二五日から、内金一〇〇万円に対する平成一一年一月三〇日から、内金一六万八〇〇〇円に対する同年二月二七日から、内金一一〇万円に対する同年五月一日から、内金一六万八〇〇〇円に対する平成一二年一月一四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(当審で請求拡張)。

2  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

四  附帯控訴の趣旨に対する答弁(控訴人)

1  主文第三項と同旨

2  附帯控訴費用は被控訴人信用金庫の負担とする。

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決六頁初行の「甲イ」の次に「一二ないし一九、」を、同初行から二行目にかけての「乙二」の次に「、当審証人藤崎順一、当審控訴人本人」をそれぞれ加え、同八行目の「旧姓(西坂)に復した」を「旧姓(西坂)に復し、桑野が手配した賃貸マンションに子ら及び桑野の父親と共に転居したが、合い鍵を所持していた桑野は同年七月ころまで右マンションにしばしば出入りしていた」と改め、同末行の「借入を」の次に「従前から取引があった」を、同七頁四行目の「代金を一七〇〇万円」の次に「、所有権移転登記手続及び代金の支払いは平成七年七月三一日」を、同六行目の末尾に「同月二七日ころ、被控訴人信用金庫において被控訴人山本に対し買受資金一七〇〇万円を融資する旨決裁が下りた。」をそれぞれ加える。

二  同七頁七行目から同八頁二行目までを次のとおり改め、同三行目の「5」を「6」と、同九頁五行目の「6」を「7」と、同一〇頁五行目の「7」を「8」とそれぞれ改める。

「5 藤崎支店長は、平成七年七月一〇日ころ、かねてから登記手続等を依頼していた控訴人に対し、月末に不動産取引の予定があるのでよろしく頼む旨依頼し、同月二〇日ころ、本件不動産について表示登記の変更(地目変更、建物の構造変更等)をする必要があったことから、控訴人に対し相談して土地家屋調査士の紹介を受け、紹介を受けた土地家屋調査士により同月二一日表示登記の変更がなされた。

控訴人は、藤崎支店長から月末の仕事の依頼を受けた後、本件不動産の登記簿を調査し、本件不動産には同年六月二二日受付の所有権移転登記請求権仮登記(原因は代物弁済予約、債権者は西山政子)及び根抵当権設定登記(債権者西山政子、債務者桑野等)があること、所有者である美穂子は「桑野」から「西坂」に姓が変わっていることなどを知り、後日藤崎支店長ら、美穂子は桑野と離婚して姓が変わっていると聞いた。

控訴人は、同月一八日、藤崎支店長の求めに応じて登記手続のために売主が準備すべきものを列記した文書をファックスで送信し、また、そのころ、同支店長から売買契約書用紙を求められたので、市販の土地建物売買契約書用紙を交付した(同月二一日、右用紙を使用して前記4の売買契約書が作成された。)。控訴人は、同月二七、八日ころ、数回、藤崎支店長から、取引日に美穂子本人が出てこなくて桑野がでてきても取引ができるか相談を受けたので、本人に確認する必要があるので、できるだけ本人を出席させるように話したが、どうしても本人が出て来れない場合には電話で本人の意思を確認するので連絡先の住所と電話番号を聞いておくようにと答えた。」

三  同八頁三行目の「及び藤崎支店長」を「、藤崎支店長及び仮登記権利者の代理人」と、同六行目の「電話が入ったため、」を「電話が入り、先ず藤崎支店長が電話に出て、次いで、控訴人に対し美穂子からの電話である旨告げて交替し、」とそれぞれ改め、同九行目の「被告は、」の次に「桑野が持参した本件不動産の登記済権利証、美穂子の印鑑登録証明書等の登記手続に必要な書類を確認し、」を、同九頁初行の「一七〇〇万円を交付し」の次に「、これが売買代金の支払いに当てられ、その場で仮登記権利者の代理人に対し一〇〇〇万円が弁済され」をそれぞれ加える。

四  (被控訴人信用金庫が当審において追加した主張)

被控訴人信用金庫は、原審において主張した損害のほか、別件訴訟(福岡地方裁判所小倉支部平成七年(ワ)第一四四二号、福岡高等裁判所平成一〇年(ネ)第四一号)の応訴を内川昭司弁護士に委任し、同弁護士に対し、平成八年一月三一日に四五万円(一審着手金)、平成一〇年二月一八日に四五万円(二審着手金)、同年一二月二四日に成功報酬金六〇万円を支払い、また、本件訴訟の提起追行を同弁護士に委任し、平成一一年二月一六日に一六万八〇〇〇円を(一審着手金)、平成一二年一月一三日に一六万八〇〇〇円(二審着手金)をいずれも支払い、もって弁護士費用として合計一八三万六〇〇〇円の損害を受けた。

第三当裁判所の判断

一  司法書士は、登記義務者の代理人と称する者の依頼を受け所有権移転等の登記申請をするにあたり、依頼者の代理権の存在を疑うに足りる事情がある場合には、登記義務者本人について代理権授与の有無を確め、不正な登記がされることがないように注意を払う義務があるものというべきである(最高裁第三小法廷昭和五〇年一一月二八日判決・裁判集民事一一六号五五七頁)。

二  これを本件についてみると、前記認定の事実によれば、(1) 控訴人は、藤崎支店長を通じて、被控訴人らから本件不動産の所有権移転登記及び抵当権設定登記の各登記手続を依頼されたものであるが、平成七年七月二一日に作成された本件不動産の売買契約の合意成立には全く関与しておらず、控訴人が売買契約関係者と初めて会ったのは、右合意が成立しこれを前提に被控訴人信用金庫の買受代金の融資決裁も下りた後の所有権移転登記手続書類作成及び代金支払いの段階であったこと、(2) その際、桑野は本件不動産の登記済権利証、美穂子の印鑑登録証明書及び実印(登録印)を所持していたこと、(3) 控訴人は藤崎支店長に対し売主本人が出席できないときは電話で意思確認するので住所と電話番号を聞いておくように予め指示していたところ、取引場所である被控訴人信用金庫に美穂子と称する女性から電話があって、藤崎支店長から美穂子からの電話として取り次がれた控訴人において生年月日と干支を尋ねて美穂子本人であると確認したというのであって、以上によれば、業務上不動産取引経験が少なくないと考えられる被控訴人信用金庫の支店長が関与して売買及び融資の話がまとまったものである上、融資実行、代金決済の段階に至って初めて控訴人が取引場所に呼ばれた際には、必要な書類等は全て揃っていたことにかんがみると、売主本人の代理人が離婚した元夫であったこと(しかしながら、控訴人が調査した本件不動産の登記簿によれば、美穂子は離婚して旧姓に復した後の平成七年六月二二日、本件不動産に桑野のために根抵当権設定登記をしていた。)、本人の意思確認が、本人と称する者からかかってきた電話でなされたことなどの事情を考慮したとしても、控訴人において依頼者桑野の代理権の存在を疑うに足りる事情があったとはいえないというべきである。

以上によれば、控訴人が自ら美穂子の所在を確かめ、直接美穂子本人に代理権授与の有無を確めるべき注意義務違反があったとはいえないから、被控訴人らの控訴人に対する本訴請求(被控訴人信用金庫が当審で拡張した請求を含む。)は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。

第四よって、右判断と異なる原判決中の控訴人敗訴部分を取り消し、被控訴人らの控訴人に対する請求をいずれも棄却し、被控訴人信用金庫の本件附帯控訴(当審で拡張した請求を含む。)も棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六五条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川畑耕平 裁判官 岸和田羊一 裁判官 白石哲)

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